【ニューヨーク時事】イスラム教を風刺する小説「悪魔の詩」(1988年)で知られる英作家サルマン・ラシュディ氏(75)が12日、米ニューヨーク州西部のイベント会場で男に襲撃された。州警察によると首と腹部を少なくとも1回ずつ刺され、ヘリコプターで病院に搬送。その後、手術を受けた。
米メディアによると、搬送後のラシュディ氏は、人工呼吸器につながれ、話ができない状態。肝臓が損傷し、腕も刺され、片目を失明する恐れがある。
事件は午前10時45分(日本時間午後11時45分)ごろ発生。講演のために演壇に登場したラシュディ氏に男が襲い掛かった。ラシュディ氏は血を流して倒れ込み、男はその場で拘束された。会見した州警察によると、男はニュージャージー州に住むヘイディ・マタール容疑者(24)と確認された。
動機は不明だが、ラシュディ氏は長く命を狙われてきた。「悪魔の詩」はイスラム教預言者ムハンマドの人の妻を連想させる売春婦が登場。イスラム世界で激しい反発を招き、複数の国で出版が禁止された。
イランでは元最高指導者の故ホメイニ師が89年、「死刑宣告」を発出。ラシュディ氏の殺害には300万ドル(約4億円)以上の懸賞金が懸けられた。
世界各国で出版に関わった人物が襲われる事件が相次ぎ、91年には日本語版を翻訳した筑波大学助教授の五十嵐一さん=当時(44)=が何者かに殺害された。容疑者不明のまま、2006年に時効を迎えている。
ラシュディ氏は英政府の保護の下、身を隠す生活を送っていたが、16年に米国市民権を取得。ニューヨークで暮らしていたという。














