東京を拠点に国内外で活動する劇作家・演出家の羊屋白玉さんが11日から3日間、白老町の森で「牛をめぐる冒険」と題したアートプログラムを展開する。飛生芸術祭2020(飛生アートコミュニティー主催)の関連イベントで、札幌市在住の美術家深澤孝史さんとタッグを組み、白老牛のルーツを追い掛けた過程の映像作品を上映する。白老町で幼少期を過ごした羊屋さんが同町を舞台に活動するのは3年目で、今後も芸術文化を通じて地域社会の今を見詰める活動を模索する。
劇団「指輪ホテル」の芸術監督を務める羊屋さんは街や森、劇場などさまざまな場を舞台に演劇を創作し、国内外で上演している。2014年から17年にかけては東京都などによる東京文化発信プロジェクトの一環で、「東京スープとブランケット紀行」と題したアートプロジェクトを展開。過渡期の社会から失われていく事象に立ち合う「東京のみとり」をテーマに作品を制作するなど、日本の演劇界で異彩を放つ社会派の劇作家、演出家として知られる。米国週刊誌ニューズウィーク日本版で「世界が認めた日本人女性100人」にも選ばれている。
18年からは白老町の飛生芸術祭に参加し、社会の問題を意識したプログラムを展開。廃業した大町商店街の旅館を舞台に、人と人のつながりを表現するキノコのアート作品展示を企画したほか、昨年はスーパーなど日常生活で利用する町内各所で米作り、性教育、憲法など各種テーマの講座を繰り広げ、町民の生涯学習や社会参加を促す社会実験にも挑んだ。
白老での活動3年目を迎えた今年は、国内各地の芸術祭などでアートプロジェクトに携わる深澤さんと組み、「牛をめぐる冒険」と題したプロジェクトを企画。1954年に島根県から白老へ黒毛和牛が導入され、白老牛の生産が始まった歴史を探るため、町を駆け巡り、さまざまな関係者と出会う行程などを記録した映像作品を制作した。白老牛のルーツを追い掛ける中で、疫病に関するアイヌ民族の伝説に出くわし、疫病をめぐって日本神話も調べるなど「調査が思いも寄らない方向へ進んでいった」(羊屋さん)という過程も取り入れた。
上映場所は白老町白老823の「仙人の森」で、白老牛の生産推進に関わった元町職員堀尾博義さん(84)の所有地。100年先の子供たちに里山を残す―という目的で、堀尾さんが1998年から森づくりを進めている場で作品を公開し、森の散策ツアーも行う。プログラム期間中の参加定員は既に埋まり、羊屋さんと深澤さんらが本番に向けた準備を進めている。
父親の転勤で幼稚園時代を白老町で過ごした羊屋さんは「町の原風景と記憶は私にとって宝物。この白老で何ができるかをこれからも考えたい」と言う。

















