白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)の中核施設・国立アイヌ民族博物館(佐々木史郎館長)は、X線CT(コンピューター断層撮影)など科学分析装置を駆使したアイヌ文化の研究活動を進めている。衣服や生活道具といった所蔵資料をさまざまな装置で観察、研究し、素材や作り方などを解明する。アイヌ文化の世界に科学のメスを入れ、高度な製作技術の復元や伝承に生かす。
同館が導入した装置は、物の断面や3次元画像を処理できるX線CTのほか、高倍率で物を観察できるデジタルマイクロスコープや電子顕微鏡、物質の成分元素や構成比率を分析できる蛍光X線分析装置など。
特にX線CTを持つ博物館は少なく、国内では東京、京都、奈良、大阪、九州の国立博物館などが所有している程度。イタオマチプ(板つづり舟)のかいなど約1・5メートルの高さの資料も調べられる。
アイヌ文化の国内研究拠点となる国立アイヌ民族博物館は、約1万点の資料を所蔵しており、それらの調査研究で装置の活用を進めている。装置を管理する研究学芸部資料情報室の霜村紀子室長は「これまで見えなかったことが見えてくる。それが科学分析装置の意義」と話す。例えばアイヌが儀礼や暮らしの敷物にしたござ。素材のガマの編み方、模様の仕上げ方、染色の顔料など、製作の技術や過程が解明できるという。
霜村室長は「マキリ(小刀)のさやは木をくりぬいて作っているのか、貼り合わせているのか、見た目ではよく分からないことが明らかになれば」と成果を期待する。
装置を使えば、作り手の技術の高さも分かるようになる。木製のイタ(お盆)をX線CTで断面を観察したところ、表面のアイヌ文様が正確に1ミリ以下の深さで彫り込まれていることが判明した。アイヌが交易で手に入れ、宝物として大事にした漆塗りの器シントコ、文様を施した木綿衣や樹皮衣など、さまざまな資料を科学分析の対象にし「過去の技術を現在の作り手が学び、次代につなげるという文化復興に研究成果を生かしたい」と言う。
科学分析装置を扱う大江克己研究員も「データの蓄積で技術はどこからもたらされたものなのか、交易ルートを含めて解明できれば」と意気込む。X線CTの3次元データを使い、3Dプリンターで資料の立体断面模型も作ることができ、より踏み込んだ研究に取り組みたいという。装置で資料の劣化や虫害の様子も診断できるようになり、「貴重な所蔵資料の保管環境を整えるためにも装置を有効に活用したい」と話す。
博物館は、科学分析装置を活用した研究成果を紹介する展示会「収蔵資料展イコロ~資料にみる素材と技」を12月から来年5月にかけ、3期に分けて開催する予定だ。




















