高みから巨大なほうき 権力への批判精神

高みから巨大なほうき 権力への批判精神
磯崎道佳《世界には塵ひとつない》、2020年、作家蔵 撮影・小牧寿里

 苫小牧市美術博物館は13日まで、中庭展示「世界には塵(ちり)ひとつない」を開催中だ。ほうきをモチーフにしたユニークな作品で、同館の細矢久人学芸員が解説する。

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 当館の中庭展示スペースにおいて、その空間を活用した展示を紹介するシリーズ企画「中庭展示」。15回目となる今回は、「世界には塵(ちり)ひとつない」と銘打ち、人の形をほうふつとさせる巨大なほうきの作品が台座の上に設置されている。

 本展開催に当たり作者の磯崎道佳(1968~)は、「社会のゆがみを検証する一つの試み」として、「立派な台座に、ばかばかしいほど大きなほうきを彫像のように展示したい」と語った。その言葉の背景には、公共空間における記念碑的な肖像彫刻に見受けられる、台座という高みから見下ろす視点に潜む権力者側の力の誇示に対する批判精神があるらしい。

 そこからは、普遍的な社会問題ともいえる、体制によって虐げられるマイノリティー(少数派)への真摯(しんし)なまなざしと同時に、磯崎のアーティストとしての美学を読み取ることができよう。

 本作には中庭の屋上に設置された2本の枝とほうきが結び付けられることで、”両手”を微妙に動かす「ダンス=掃除」を行う仕掛けが仕組まれている。予期せぬ風に踊らされる巨大なほうきの姿は、高みにありながらも明確な意志を持たずに右往左往する権力者の姿、あるいは、マイノリティーが支配者に成り代わり権力の座に就いた後に行う喜びの舞といった両義的な解釈が可能となり、見る者に想像の余地を残すこととなる。

 この機会に、現代社会の在り方に対する深い思索とユーモアに満ちた磯崎の作品に触れてみてはいかがだろうか。

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 午前9時半~午後5時。月曜休館。観覧料は300円、高校・大学生200円、中学生以下無料。

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