本紙白老支局の近くにある食肉店が先日、やたらとにぎわっていた。いてつく寒さの中でも店前で長い列をつくる客の目当ては、お買い得の白老牛肉や加工品。安いうちにたくさん買い込み、贈ったり、家族が集まる年末年始の食卓を飾ったりするのだろうか。白老町民といえ、普段はなかなか口にできない高級肉。セールにつられて私と妻も列に並んだ。
いまや道内外に知られる銘柄牛。今年は新型コロナウイルスの影響で中止になったが、毎年6月に町内で開かれる白老牛肉まつりには各地から人が押し寄せる。町民にとっても、郷土を代表する自慢の食材だ。
白老牛の歴史は66年前の1954年にさかのぼる。町が地元に特色のある産業を興すため、大金を投じて、北海道で初めて44頭の黒毛和牛を島根県から導入した。海の物とも山の物ともつかない真っ黒な子牛を受け入れた農家は、試行錯誤しながら肥育や繁殖に挑み続け、血のにじむような努力で白老の一大産業に成長させた。
だが、安泰ではない。中国の企業が白老牛の名称とマークの商標登録を当局へ申請したことが分かった。白老町は認めないよう同国に異議を申し立てているが、先行きは不透明だ。中国で日本の農畜産品ブランド名を勝手に商標登録し、商売に利用する事例が近年相次ぐ。日本の食の市場拡大を阻害し、銘柄に育て上げた生産者の誇りを傷つける行為を、政府は決して見過ごしてはいけない。(下)









