帰省

帰省

 就職して初めての勤務地は横浜だった。それまで二十数年間、札幌でしか暮らしたことがなかったので、夏の暑さは想像を超えていた。部屋にエアコンはなく、夜中に水風呂に漬かってしのいだこともあった。冬は冬で底冷えがして、室内はどこに行っても薄ら寒い。乾いた街を歩きながら、切ないほど「雪が見たい」と思った。年末に帰省して新千歳空港の上空から雪景色を見たとき、涙がこぼれそうになった。

 もう40年近くも前の話だが、帰省時期になると今も思い出す。仕事や進学で実家を離れ、コロナ禍での1人暮らしや、アルバイトができず困窮する子どもを心配する親は帰省を心待ちにしているだろう。帰省する側も、実家で骨休めに、孫の顔を見せに、ウインタースポーツを楽しみに―と、それぞれに心弾む予定を思い描いていたはずだ。

 それが今年は、新型コロナウイルスの流行で一変した。「帰ってくるなと言われた」「PCR検査を受けて陽性だったらやめようかな、と」。テレビのインタビューに、いろいろな人が答えていた。東京・新橋にできた民間のPCR検査センターには予約が殺到しているという。専門家は「帰省する人は2週間前から感染対策の徹底を」と忠告していた。ウイルスには潜伏期間があり、2週間前から会食も控えるべきだと指摘する。2週間前はまさに今。帰省するにしても、やめるにしても、感染を広げないことが一番に求められるのは間違いない。(吉)

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