あすは大みそか。この時期になると、いつも取材で訪れていた知的障害者施設に泊まり込み、年越しのお手伝いをしたことを思い出す。
「福祉の現場では―」と、すぐにいきり立つ若い記者はトランプゲームの人数合わせ以外、きっと、何の役にも立たなかったに違いない。少し肩の力を抜きなさいと、親しくなった職員が誘ってくれたのだと思う。
31日の夕方から夜にかけての出来事を覚えている。「正月には家に帰りたい」と希望していた初老の女性入所者のところに迎えの家族がなかなか到着しなかった。暗くなってから、ようやく弟さんが迎えに来た。泣いて喜ぶ姉と遅くなったことを謝る弟の姿。夕食から間もなく、午後に帰宅したはずの20代の男性入所者が施設に戻ってきた。帰ってはみたものの居心地がよくなかったらしい。「正月って何だ。家族って何だ。とりわけ施設で暮らす人にとって―」。布団に入って考えた。自分はやがて結婚し、親と入れ替わるように子どもが生まれ、平穏な正月を何十回も過ごしてきた。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く。政治が言いだすはるか前から子や孫の帰省は課題。「子どもが生まれて以降、初めて夫婦だけの正月」と知人。わが家もそうだ。忘れていた宿題を思い出したように「正月と家族」のことを考えた。空港や駅に、例年の混雑はないようだ。帰省を選んだ人も、自粛を決めた人も、最大限の注意をし合いながら、静かな正月を。(水)









