わが家は、玄関からではなく居間からの階段で2階へ上る造り。子どもの友人を、親も「こんにちは」「またね」と迎え、送ってきた。
いろいろな友人が出入りしていた。菓子作りが趣味という男子高校生は、鍋で焼いたケーキを鍋ごと持って階段を上って行った。定期試験を前に緊急合宿のはずの次男の部屋からは朝まで笑い声が聞こえた。卒業の頃には人数が分からないほど集まった。夜遅く、そのうちの一人の泣き声が廊下から聞こえた。「みんなと別れたくない!」
子どもも友人たちも、家を離れてもう20年以上になる。みんな生活や仕事、子育てに忙しそうだ。K君は今でも時折訪ねてくれる。D君やKちゃんからは毎年、家族写真を印刷した年賀状が親宛てに届く。泣いていた子は先年、病死したそうだ。
伊吹有喜さんの小説「犬がいた季節」は、捨てられ、拾われた犬が高校で生徒たちに飼われた物語。新聞広告を見て購入した。入学し3年後には卒業していく生徒たちと犬との、延べ十数年間の、淡く、時には濃密な出会いと別れの物語を、時々、鼻水をすすりながら読んだ。
卒業の季節。旅立ちの準備は進んでいるか。大学のオンライン授業とやらはいつまで続くのだろう。今年は新型コロナウイルス対策のワクチン接種も始まり騒々しい。親とは、子どもらの元気を受け取って見守り、そしていつまでも彼らを待ち続ける生き物らしい。悲しいほど早く老いていく犬のように。(水)









