この春が10年という節目になることもあって、新聞やテレビなど各メディアの報道は例年以上に東日本大震災に関連した特集や企画が組まれた。本紙でも各面で展開している。癒えることのない悲しみに苦しみ続ける人がいる。その中で希望を見いだし、心の再生、再起につなげた人もいる。その一つ一つに心は打たれる。風化はあらがい難い。悲しみと恐怖の記憶、悲惨な事実の伝承と教訓の共有は被災地に限らない課題だ。一連の報道を通して地震と津波の被災地の今を知ることが、大切だと改めて感じる。
きょう12日は福島第1原発で水素爆発が起こった日だ。いまだ核燃料の取り出しさえ終わらず、高濃度の放射性物質を含む汚染水の処理は見通せず、敷地内の貯蔵タンクはどこまでも増え続ける。10年前に政府が発令した「原子力緊急事態宣言」は現在も解除されていない。
「復興五輪」として政府を挙げて誘致した東京五輪は、昨年から「人類がコロナに打ち勝った証し」のフレーズが使われている。この転換は違和感がある。東京五輪の誘致競争の時、福島第1原発事故の放射能の影響について「アンダー・コントロール」の言葉で未曽有の惨事からの復興を印象付けようと世界に発信したリーダーがいた。今はコロナを前面に出して五輪を語る。汚染水も廃炉も確たる見通しが立たない現実から、世界の目をそらせる魂胆かとも勘ぐりたくなる。福島原発の事故はまだ決着していない。(司)









