「こないだテレビで苫小牧の目抜き通りをやっていたよ。にぎやかでいいところだった」。札幌で離れて暮らす母に電話をすると毎回、こう言う。しかも駅前だという。「ないよ、そんな通り」と答える。半年以上、同じことを言っているので「こないだ」がいつかも分からないが、中心市街地の通りがにぎわっているのを見たことはない。
東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場を設計した建築家、隈研吾氏が苫小牧市のまちづくりに関わることになった。市が今月まとめた「都市再生コンセプトプラン」案には、隈氏の事務所が作製した中心市街地のイメージ図も載っている。苫小牧駅から緑あふれる広い通りが真っすぐ海まで続き、人々が歩いたり、テラスでくつろいだりしている。
札幌との往来自粛で半年会えていない母は、90を超え元気ではいるが、足腰や脳の働きが弱っていないか心配にはなる。週に1度かける電話で必ず繰り返されるのが冒頭の会話だ。ゆっくり、ゆっくりとでいいから、こんな通りを母の手を引いて歩けたらいいのにと夢見る。たぶん勘違いだと思うテレビで見た目抜き通りより「いいところだねえ」と喜ぶだろう。
それほど魅力的なイメージ図だが、進展のない駅前の旧エガオビルを見上げると、落差の激しさに暗たんたる気持ちになる。この問題の解決がなければ、イメージ図は文字通り絵に描いた餅になる。(吉)









