日テレアイヌ民族差別表現問題 広がる波紋 「決して許されない」 経緯説明と謝罪求める

日テレアイヌ民族差別表現問題 広がる波紋 「決して許されない」 経緯説明と謝罪求める

 日本テレビ系列が12日に放映した情報番組でアイヌ民族への差別表現があった問題は、各方面から抗議が上がるなど波紋を広げている。人権を傷つける不適切な放送内容に北海道アイヌ協会は「決して許されない」と憤り、改めて経緯の説明と謝罪を求める考え。差別や偏見などアイヌ民族の苦難の歴史をどう伝え、共生社会の実現につなげるか―、今回の問題を受けて民族共生象徴空間(ウポポイ)を運営するアイヌ民族文化財団の模索も始まっている。

 ■相次ぐ抗議

 問題の番組は、12日午前に放映された「スッキリ」。アイヌ民族を描いたドキュメンタリー作品の紹介後、お笑い芸人の脳みそ夫さんが「この作品とかけまして動物を見つけたととく、その心は『あ、犬』」と発言した。番組は事前収録だったが、局内のチェック機能は働かなかった。放送後、アイヌ民族を動物に例える不適切な表現に、政府をはじめ各方面から非難が殺到。日テレは同日午後、「担当者にこの表現が差別に当たる認識が不足していた」と謝罪のコメントを出した。

 しかし、北海道アイヌ協会は「看過できない」と怒りをあらわにし、13日、番組製作の経緯を説明するよう日テレに要請。16日には同協会の大川勝理事長が首相官邸を訪れ、加藤勝信官房長官に善処を申し入れた。アイヌ政策推進北海道議会議員連盟(神戸典臣会長、議員97人)も「アイヌの方々の尊厳をおとしめる極めて不見識な内容」と抗議の意を表明し、19日には鈴木直道知事と大川理事長が「極めて遺憾」と共同メッセージを出すなど、波紋が広がり続けている。

 ■憤り収まらず

 番組がこれほど大きな問題となったのは、今回の差別表現がかつてアイヌ民族の血筋の人々を侮辱したフレーズとまさに同じだったからだ。番組の放送後、歴史的にアイヌ民族と深い関わりのある白老町でも衝撃が広がった。

 アイヌ民族をルーツに持ち、白老で生まれ育った女性(80)は「あ、犬という言葉は昔、アイヌをやゆする常とう句だった。もう聞かれなくなったけれど、どうして今になって」と絶句した。同町社台でカフェを営む田村直美さん(49)は、子どもの頃の嫌な記憶がよみがえったという。「小中学校時代、今回問題になった同じフレーズを擦れ違いに私へ投げつける生徒がいて、とても苦しんだ」と振り返る。

 放送から10日たった今も、北海道アイヌ協会の大川理事長の憤りは収まらない。「無知だったでは済まされず、私もすごいショックを受けた。あの放送でどれほど多くの人を傷つけたことか」とし、「6月に開く協会の総会の場で、改めて経緯の説明と謝罪をしてもらうことを日テレに求めていく」と語気を強めた。

 ■ウポポイの役割

 政府は2019年4月、アイヌ民族の誇りが尊重される社会の実現をうたい、差別の禁止を示したアイヌ施策推進法を公布。20年7月には新法の扇の要として、アイヌ文化の復興と発信拠点ウポポイを白老町ポロト湖畔に開業し、アイヌ民族が先住民族との認識も国民の間で高まった。

 そうした中での問題発言に、北海道大学アイヌ・先住民研究センターの加藤博文センター長は「アイヌ民族の権利や人権の尊重、文化の復興がなぜ必要なのか、その理解が社会でまだ共有されていない」と指摘。独自の言語や文化の喪失につながった国の同化政策、差別や偏見などアイヌ民族がたどった苦難の歴史を正しく伝える必要性を強調し、「学校教育を充実させるほか、ウポポイの国立アイヌ民族博物館に専用コーナーを設けてほしい」と望んだ。同博物館に関しては、アイヌ民族が背負った苦しみ、悲しみの歴史の伝え方が弱い―との来館者の声も少なくなかった。

 ウポポイを運営するアイヌ民族文化財団も対策の検討に乗り出した。同財団の今井太志事務局長は「言語道断の今回の問題を契機に、どう取り組むかの議論を始めたところ。教育の場としても期待されるウポポイの役割を果たしていきたい」と話す。

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