知の巨人

知の巨人

 アジサイが咲いている。地下鉄駅へ向かう通勤途中、心を和ませてくれる。札幌の気温はもう真夏並みだが、雨が降りだすと冷たい風が吹く。本格的な夏到来を前に、マスクを2枚重ねた取材も続く。

 そんな季節。ジャーナリストの立花隆さんの訃報が届いた。亡くなったのは4月30日で、2カ月近くたって公になった。立花さんらしいなと思った。

 学生時代に読んだ、あの有名なリポート「田中角栄研究―その金脈と人脈」は衝撃だった。まだ日本では調査報道という言葉すらなかった時代だったと思う。立花チームは膨大な資料をかき集め、それを実践した。立花さんによると、月刊「文芸春秋」に記事が掲載されたとき、どこよりも早く取材に駆け付けたのは米国のワシントン・ポストだったという。日本のメディアは当初「あんなことは俺たちは前からみんな知っていた」と陰で自慢げに触れ回るだけ。やがて政界を揺るがし、田中首相退陣表明へとつながっていく。

 昨年1月に出版した「知の旅は終わらない」(文春新書)で、立花さんは人生を振り返っている。戦後、北京からの引き揚げ体験で〈何が起きてもあわてない〉。自身は現代哲学的な意味でのノマド(遊牧民)であるとし、〈書くという仕事はノマドそのもの。山ほどの好奇心を抱えて、その好奇心に導かれるままに仕事をしてきた〉―。さまざまな分野に好奇心を向け続けた「知の巨人」。80年の人生を駆け抜け、星になった。(広)

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