知恵

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 子どもの頃、いじめを受けた経験のある知人がいる。つらさを思い出すから、内容は誰にも話したことがない。数十年を経た今も「加害者を絶対に許さない」と怒る。

 いじめとは―。苦悩する父母や教師の声と言葉、自分の非力を思い出した。東京五輪開幕直前の騒動で記憶の時計が引き戻された。開会式の作曲担当者と関連の文化事業に出演予定だった絵本作家が相次いで辞任、辞退した。理由は、過去のいじめだ。音楽家は同級生や障害者へのいじめの経験を雑誌で複数回語っていたそうだ。はるか以前のいじめ加害者の名前や顔が新聞やテレビで連日、紹介される異様。インターネット社会の恐ろしさを指摘する声も多いが、一方で、憎しみを忘れられずに苦しみ続けている被害者がいることも、忘れてはならない。

 世界には差別や分断、内乱や分裂、天災や気候変動、新規感染症対策など山ほどの難題がある。腰が砕けそうになっても目をそらすことは許されない。

 史上初めて、1年遅れとなった五輪の開会式が昨夜、開かれた。開催か再延期・中止かをめぐる対立や非難は今、この瞬間も続いている。華やかな開会式は、国内4200人余、世界57万人余に上った、きのうのコロナウイルス新規感染者や家族、治療に当たる医療従事者たちにとって、きっと別世界のできごとに違いない。それでも私たちは支え合い、思いやる関係を模索しなければならない。知恵を持ち寄って、絶対に。(水)

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