勇気や力はそう簡単に与えたり、受け取ったりできるものではない。作家にしてミュージシャンの町田康さんは、優れた芸術にもそれは「できないと思う」と語る。与えようと企図した段階で、その「代替品」に成り下がるからだという。その上で「そうした簡単な言葉で表し難いものを確かに受け取りそれが自分の中に間違いなく残り、その後の人生に影響を及ぼすことがある」とも。連日、東京五輪で躍動する選手たちの姿を目にしジャンルの違う話ではあるが、町田さんが芥川賞作家・今村夏子さんのデビュー作に寄せたそんな言葉を思い出した。
若手の台頭にわくわくしつつ、ベテランの金メダル獲得の瞬間は特に胸が熱くなる。エースの看板を背負い続けたソフトボール界のレジェンドは、米国の強力打線を抑えてまた伝説を作った。リエントリー(再出場)の最終回は、1回目の登板時よりも球の勢いが増しているように感じた。大けがを乗り越えた口数の少ない柔道家が激闘を制し、静かに目頭を押さえる場面も感動的だった。それぞれがすさまじい集中力や勝負勘を見せた。満身創痍(そうい)で重圧に耐え、戦い抜いた選手たちの影響力が小さくないのは当然かもしれない。さまざまな思いが交錯する新型コロナウイルス禍の五輪。首都圏3県と大阪への緊急事態宣言が検討される緊迫した局面で開催への反発も強まっているが、多くの人がスポーツの力を実感している。(輝)









