詩人の高橋順子さんが書いた「風の名前」(小学館)が面白い。晩夏に吹く心地よい風、ひそやかに秋の訪れを告げる風を「涼風(すずかぜ)」と呼ぶのだそうだ。18日連続真夏日という観測史上最長の酷暑となった札幌も、東京五輪閉幕の時に合わせたように、そんな風が吹き始めている。
五輪終盤の4日間、競歩・マラソン競技が行われた札幌。期間中、東京と変わらない気温となり、男女マラソンでは出場した45人が途中でリタイア。過酷なロードレースとなった。
新型コロナウイルス感染対策として、大会組織委や道、札幌市は再三、沿道での観戦自粛を呼び掛けたものの、効果は限定的に終わった。中心部の駅前通では日を追って観客が増え続け、人の波であふれ返った。「オリンピックを生で見たい」と道外から訪れた人たちも少なくなく、公道を使用した屋外競技での規制の難しさを露呈した。
賛否両論が渦巻いた57年ぶりの東京五輪。主催するリーダーたちから胸に残るメッセージの発信はなかったが、札幌の沿道を4日間取材し、トップアスリートたちの「立ち向かう心の共有」の大切さを感じた。特にラストランとなったマラソンの大迫傑選手の粘り強く万感の走りには、心が揺さぶられた。そこには次世代に託す希望も見えた。
気が付けば、きょうは盆の入り。オリンピックも本来は世界平和を願う祭典。明後日は終戦の日。猛暑だった東京五輪を挟み、祈りの8月は続く。(広)









