都会に火水

都会に火水

 国内外で活躍するアート界のレジェンド、横尾忠則さん(85)。自身が自作について語る企画「我流点睛」が週1回、本紙に掲載されており、身近に感じている人も多いのでは。

 今年は東京五輪・パラリンピックにちなみ、長女で画家の美美さんと、JR東京駅前で隣り合わせに並んでいる2棟の高層ビルの壁一面を使い、巨大な壁画を制作した。宇宙生命の根源を基本構想とし、1棟は火、もう1棟は水をテーマにした作品だ。披露発表会で、美美さんは「立ち止まって上を見上げる時間を持ってほしい」、横尾さんは「改めて自然を認識してもらえれば」と語っている。

 神道に「神は火水(かみ)なり」という言葉がある。下から上へ燃える火は天、上から下へ流れ広がる水は地を意味し、天と地で命は循環し、自然の恵みが生まれるという教えだ。横尾親子は火と水の神を作品で表現し、「見上げて見ることで、見えない存在も大切にする人の営みを思い出してほしい」と発信したのでは。

 感染症の流行で生活スタイルが変わり、物や財から情報や人脈へ、縦社会から横のつながりへ、求められるものが変わりつつある。その中で、従来通りの価値観で半ば強引に五輪が開かれたことに、見えないウイルスへのおごりを感じた人は多かったように思う。時流を読んでつくられた大壁画に、コロナ下で不要不急とされがちな文化・芸術の底力を感じている。(林)

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