1980年代後半に東京で大学に通った頃の小職は秋の深夜、道産子として望郷の念に駆り立てられた。在京テレビキー局が挑んだ実験的手法の深夜番組を見たためだ。
88年に運行開始の寝台特急「北斗星」の上野出発の夕景から終点札幌に到着する翌朝までの映像を運転席の窓から収録し続けてわずか2時間で倍速放映した内容。列車が走る間にナレーションは一切なく、洋楽がかかり続けて最初は妙な気もしたが、見るうちに夢中になった。
早送り映像の列車は青函トンネルを抜け、早暁の本道線路上をばく進。やがて右手に国道36号が見え、左手の牧草地を抜けて住宅地に近づいて行った機関車がせつな、わが実家近傍を駆け抜けた。アパート居室で一人小躍りした昭和晩期の暇な学生の夜更かし行状だが、正月や夏の休みに諸事情で帰省を諦めていたこともあり、番組による「疑似体験」提供に感謝した。後に社会人になり、休暇を取って本州へ向かう際、苫小牧から計2度乗った列車が懐かしい。2015年に国内最後の寝台特急「北斗星」運行は終了した。
今や端末画面を介した遠隔「ワーク」さえ普通の時世。遠出の機会が激減した。コロナ沈静化の後に個人的に一番したいのは「旅行」だ。未到地探索はいい。再訪地では旧友と一献傾けたいし、長らくごぶさただった方たちのお宅を訪ねてもみたい。きっといつか―。緊急事態の秋はまだ続くので、もう少し想像の道行きで辛抱する。(谷)









