いつもいつも通る夜汽車 静かな 響き聞けば 遠い町を思い出す―。自宅がJR線路に近く未明に時々、貨物列車の音で目を覚ます。もう30年以上聞き続けた音だ。
そんな時に、必ず思い出すのは小学校の音楽の時間に習った「夜汽車」。原曲はドイツ民謡だという。寂しげな旋律が好きだった。旅行も転居も経験がなく、記憶のどこにも「遠い町」などなかったが歌うとき、心は必ず遠い町へ出掛けていた。
自分が東北本線の夜行列車に乗っていた当時、レールのつなぎ目を車輪がたたくゴトゴトンゴトゴトンという音はゆっくり聞こえた。今は速度が違うようで車輪とレールが擦れる音が、「ゴーッ」と、ジェット機のエンジンのように聞こえる。昔と変わらないのは踏切のカンカンカンカンという警報音。風向きや雲の高さの違いかずいぶんはっきりと聞こえる日もある。
JR日高線鵡川―様似間が今年4月1日付で廃止となって半年が過ぎた。無音の鉄路の、静けさと寂しさを想像する。列車の運行自体は2015年1月の暴風雪のために止まっていたから、あの鉄路の生きていた音が沿線住民の生活の区切りの音として響かなくなって、もう6年半以上が過ぎたことになる。
警笛や汽笛だけでなく家が駅の近くなら駅員や車掌の到着や出発案内の声、ベルの音も聞こえていたかもしれない。数十年聞き続けた音の記憶が耳の奥から消え去るまでに、どれだけの年月がかかるのだろう。(水)









