日本に生息していないのに、虎は古来から日本人に特別視されてきた動物だ。力と権威の象徴として、武将たちにも好まれ、絵師に眼光鋭い勇猛な姿を城のふすまやびょうぶに描かせた。〈虎の威を借る狐〉など、野生動物の頂点に君臨する強さにちなんだ格言、故事も数多い。
今年の干支・寅(とら)には「動」との意味がある。コロナ禍で停滞した世の中を変える躍動の年に―。そう願うばかりだが、〈虎口を脱する〉のことわざ通り、危険な状態から脱け出せるかどうか。年が明けて早々、国内で新たな変異株オミクロン株の感染急拡大が始まった。〈虎は一日に千里を走る〉がごとく、そのスピードはこれまでのデルタ株をしのぐレベルという。ようやく落ち着いたかと思えば、また再燃。寅年の勇ましい運気に乗りたいところだが、たけだけしさがコロナを勢い付かせ、社会を荒らすことにならなければいいのだが。
日本医師会は第6波に入ったとみる。医療崩壊が心配だ。次々に襲い掛かる敵を打ち負かす秘伝の〈虎の巻〉はどこかにないものかと思う。ワクチン追加接種や、国が供給に急ぐ経口薬の効き目に期待したいが、変異を重ねるウイルスへの不安は拭い切れない。ここは我慢を続け、感染予防を怠らず、〈虎視眈々(たんたん)〉と相手の急所を慎重に狙いたい。寅さんの映画でこんなせりふがある。「どうした みんな元気だせ もうすぐ青い鳥が見つかるぞ」(下)









