炭都・夕張市では一番方が作業を終えて出坑する午後3時になると、アラン・ドロン主演、1960年のイタリア映画「太陽がいっぱい」の主題曲が街中に流れ坑内員を迎えた―。先日の全国紙読者投稿欄で、父が炭鉱勤めだったというAさんが紹介していた。
いわゆる歌謡曲しか聴いたことのない小学生の頃の自分が、初めて美しい旋律に胸を締め付けられる経験をした曲だ。映画の場面などをカラー印刷した薄いレコード盤「ソノ・シート」をいとこが聴かせてくれた。
夕張市は20以上あった炭鉱が相次いで閉山、最盛期に12万人を超した人口が現在は約7千人まで減った。それでも「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」を開くなど映画文化とのつながりが今でも強い。山の斜面まで木造平屋建ての炭住(炭鉱住宅)が並んだという夕張。哀愁を帯びた曲は、あの山や谷にどんなふうに響き、こだましたのだろう。想像が膨らんだ。
市南部の小さな炭鉱に中学生の頃まで住んでいたという友人は「聴いたことないなァ」。炭鉱の歴史に詳しい石炭博物館に聞くと、赤平市内の炭鉱では坑内員の希望を聞いて音楽を流したそうだが夕張にはそうした仕組みはなかった。全山放送は時報や事故発生の時だけで音楽は流していないはずという。元炭鉱マンの「聴いたことがない」という証言もあったそうだ。
投稿者の記憶違いだったのだろうか―。耳の奥の物悲しい旋律がなかなか消えない。(水)









