雪解けの湿地に水鳥が舞う。ここで冬を過ごし、北へ帰る鳥たちの渡りはこれからが本番だ。足元に目を向ければ、堅く小さなつぼみを付けた海浜植物が花を咲かせる日をじっと待っている。白老町のヨコスト湿原の早春に心が和む。強権国家が兵器で隣国の街を破壊し続け、世界平和を脅かす非常事態が起きているからか、ことさら湿原の穏やかな風景がいとおしく見えた。
白老町が新年度からヨコスト湿原の自然環境調査に乗り出すことを決めた。土地の乾燥化や外来植物の侵入など、貴重な自然が悪化の傾向にある中で、2年にわたる実態調査を通じて手立てを探るという。保全に腰を上げた町の動きに環境団体からも期待の声が上がる。
ヨコスト湿原は一般的に有名ではないけれど、環境は実に優れている。全体面積33ヘクタールのコンパクトな範囲に砂浜や砂丘、河川、湿地、草原、林と、自然の見本市のような形状をつくり上げ、絶妙なバランスを維持しているのは特異と言えよう。適応した生物相も豊かで、環境省が「日本の重要湿地」に指定しているのもうなずける。
調査で町は、動植物の生息状況や湿原の生命線とも言える川の水の流れも詳しくつかみ、保護、改善の対策を示した報告書をまとめる。だが、守る上で難題もある。湿原には民有地が多いことだ。地主の土地利用が環境消滅を招く恐れがある。保全への理解や協力を得る努力。それも欠かせないだろう。(下)









