背景

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 国後島という名の島を初めて見たのはもう20年ほど前のことだ。オホーツク管内斜里町側から知床横断道へ入り、知床峠付近から巨大な島を見た。雪を頂いた羅臼山(888メートル)の大きさに驚いた。

 北方領土の島々といえば、地図帳に大きさと形は描かれているものの、標高の色分けがなく白地図のように印刷されている印象が強い。しかし目の前の島は立体的で大きく、高い。何よりも島までの距離の近いこと。距離の遠近が国境線や領土を考える場合の最大の要素ではないことは分かっているつもりだ。しかし目の前の島は知床半島と根室半島の間に延びる、北海道のもう一本の半島のように春の日差しを浴びて輝いていた。

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって2カ月が過ぎた。主権を守ろうとする国と、領土の拡張を目指す国の、戦いの終わりが見えない。「何年も続く」。そんな分析もある。国連の停戦要請は実を結ぶのか。日本政府は先に公表した2022年版の外交青書で「北方領土はロシアに不法占拠されている」と記述を変えたそうだ。ウクライナ戦争への便乗という批判もある。手元の年表で、昭和初期に日本が近隣の国々に何をしたのか確かめた。都市の占領、国連脱退などの記述が並んでいる。太い文字で「満州国、建国宣言」とあるのは1932年3月1日。手口は今のロシアと似ている。

 国後島は今、観光船事故の捜索を写す航空写真の背景に静かに収まって見えるが―。(水)

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