アズキバー

アズキバー

 父は若い頃からアイスが好きでよく仕事帰りに土産として大量買いしていたが、その選択にはいつも不満だった。「買ってきたぞ」「やったあ!」。幼いきょうだいと駆け寄って袋の中身を見ると、アズキバーや栗もなかなど餡(あん)系が中心で、他はシャーベットが少々。好物のバニラ系は入っていなかった。内心落胆していたが、それを察してがっかりする父の顔を見たくなくて、いつも喜んでいるふりをしていた。そのやりとりを一体何度繰り返したことか。ちなみに義父も甘党で、家族で外食後のアイスは今も定番だが、同じバニラ派のため選ぶ商品は毎回ほぼ合致している。

 良くも悪くも父は周囲の影響をあまり受けない。好物の把握も大ざっぱで、プレゼントは気持ち重視だ。振り返れば「何が欲しい」と聞かれた記憶はほとんどない。そんな父だから欲しい物があるとき、うっかりと「○×君も持っているから」といった言い方でねだると「人は人」と即却下された。素直に好みを伝えればよかったのか。小学生のめいっ子たちのように。

 めいたちは近くに住んでいて遊びに来るから、買っておけば食べると、母と2人暮らしになってもスーパーなどでアイスの大量購入を続ける父。先日、母とそんなアイスの昔話をした後、帰省し実家の冷蔵庫を開けてみると、備蓄されていたのは大量のアズキバー、栗もなか…それと若干のバニラアイス。19日は父の日。(輝)

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