再生

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 コロナ禍で中止や延期、観覧制限の続いていた孫の運動会の画像が届いた。ウイルスの中休みにマスクから解放されて走る元気な姿だ。

 昔なら現像や焼き付けを経て何枚かの静止画像に収まり、手紙と一緒に封筒に入れられ、郵便局を経由して数日がかりで届いていた。撮影前後のできごとや会場の様子は、電話で補っていたものだが、今はスマートフォン(スマホ)で撮影した音声付きの鮮明な動画が、その日のうちに、すぐ送られてくる。

 横幅20センチ弱のタブレット(薄型パソコン)に画像を呼び出して中央の三角形を押せば、孫たちは何度でも踊り、走ってくれる。何度でも―とは言っても自分は2度だけ。機器の操作を担当する家人は4回以上も見たはず。孫は、正月に帰省した時に比べ一回り以上大きい。誰に似たのか2人とも俊足。踊りにもキレがある。これは冷静な客観的評価。誤解のないように。

 義母が脳出血で急死して40年になる。遊びに来た母が、カセットテープレコーダーの録音スイッチを入れたまま孫と遊んだ声がテープに残り、何かの時に突然再生されて慌てたことがある。記憶の中で徐々に遠のいていくはずの死者の声が聞こえた違和感を、ふと思い出した。

 あちこちのスマホやタブレットに数年前、数十年前の声や動画がたまっていく。消去をしない限り記憶力をはるかに超えて増え続ける鮮明な過去―。これも便利か。少し不気味さを感じながら再生ボタンを押す。(水)

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