Mさんの声を耳にしたのは、何年ぶりだろう。電話口から聞こえる彼女の優しげな口調は昔と変わらない。一時、苫小牧市を離れていたが、今は戻って静かに老後を過ごしていると言った。久しぶりに話をしながら、Mさんの行動を何年も追い掛け、取材していた頃を懐かしく思い出した。
彼女はかつて男性だった。心と体の性が一致しない性同一性障害に苦しみ、女性の服装で外を歩けば、人の視線が突き刺さった。50歳を過ぎて性別適合手術を受け、戸籍の性別も変えてやっと本当の自分を手に入れた。だが、見渡せば同じように性の問題で苦悩する人がたくさんいた。偏見と差別にさらされ、心が病んだり自殺に追い込まれたりした人も見た。現状を少しでも変えたいと、当事者支援を訴える運動に長く関わった。
それから月日がたち、性の多様性に対する認知度は以前より高まったと感じている。同性カップルを婚姻相当の関係と公的に認め、行政サービスを受けやすくするパートナーシップ制度を導入する自治体が増え、苫小牧市も今年度から取り入れる予定だ。Mさんもそうした動きを歓迎するが、性的少数者への理解や寄り添いはまだまだ足りないと思っている。偏見を恐れ、誰にも打ち明けられずにいる人が今も圧倒的多数だからだという。型通りの施策では当事者の心に響かない。自認する性をさらけ出して生きられる権利を―。共生社会の実現を願うMさんの一貫した主張だ。(下)









