「これが米。これは大豆、こっちはトウキビ―」。子どもが小さい頃、道路沿いの農地の作物を見せて葉の形や色の違いを教えていた。
自分が食べている物がどんな形や色で育ち、収穫されているのか、知っておいて損はない。自分は水田地帯育ちで小麦を知らなかった。社会科では生産や輸出はヨーロッパやアメリカが中心と習ったものの、初夏の収穫期を迎えた麦畑の色を表す、ばくしゅう、むぎあきという言葉は同業の大先輩から教えてもらった。先日のテレビに青空の下、美しく輝くウクライナの広い広い小麦畑が写っていた。
ロシア軍に砲撃されて小麦が燃え、兵士たちが消火に追われていた。砲弾で穴だらけになった畑、戦車の無限軌道に踏みにじられる畑も見た。収穫を妨害するために地雷を仕掛けられた畑もあるという。戦争とは、どこまで愚かしいものなのか。
ロシア軍のウクライナ侵攻が始まったのは2月末。季節が変わったのに、停戦や休戦の入り口も見えない。東部では戦火が激しさを増している。核兵器や生物・化学兵器の使用をにおわせて世界を威嚇したプーチン氏は、ウクライナの豊かな穀物を武器に変え、輸入を待つ国々の物価高騰や飢餓を盾に使う。
ウクライナ国民が戦争初期に「飽きないで」と世界に呼び掛けたことを思い出す。慣れと無関心は最大の敵なのだ。いかに長くとも目をそらすまい。破壊された家や橋、黒煙を噴く工場の画像を見ながら、思う。(水)









