発車

発車

 100年の単位で考えなければならない事業がある。前例や財政の壁を乗り越えてみせた先人の志や知恵、決断に、時に胸を打たれる。

 1991年3月発行の「新穂別町史」に「スクールバスの運行」の項がある。穂別村(現むかわ町穂別)が、村の次代を担う青年たちのために51年、村立の高校を開校させたことは広く知られているが、他村に先駆けてスクールバスを走らせたことはもう記憶する人も少ない。

 戦後、自治体の課題の一つは六・三制の新教育制度の確立。中学校は、小学校への併置が多かったそうだ。穂別では市街地南の和泉(いずみ)地区にある和泉小に併置されていた和泉中を市街地の穂別中に統合する方針だった。しかし徒歩通学では生徒の負担が大きい。村がバス事業を行うこととし、国に申請したが、認可がなかなか下りない。町史によると、村は校長の要請で、村のバスを中学校に貸す方式に変えて、50年に名前通りの「スクールバス」が誕生した。中学生の下校を見送ったバスはそのまま、定時制高校生の送迎に砂利道を走り続けた。

 穂別中、穂別高の卒業生でもあるAさん(73)は先頃、スクールバスで通学した89歳の先輩に走行経路などを教えてもらった。「バスは小さな村が教育に積極的に取り組んだ証し。何とか発祥の地の碑を残したい」

 バス発車から70年余り。地方の教育はやせ細るばかりだ。6月には穂別高の2025年度募集停止方針も発表された。(水)

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