札幌の地下鉄駅へ向かう道端で、キバナコスモスが揺れている。雲の形も少し変わった。二百十日も過ぎて、日が短くなったのが分かる。夏の終わりと秋の始まりが、せめぎ合っているように映る。
そんな夜が少し長くなった季節。白鷗大学教授の岡田晴恵さんの「秘闘(ひとう)」(新潮社)を読んだ。副題は「私の『コロナ戦争』全記録」。新型コロナウイルス発生から700日の裏舞台が描かれる。政治的な動きを見せる専門家。そうした政治にたけた専門家を選んで重宝する政府。この2年間、なぜ日本は世界に比べ対策が後手後手に回り、あり得ないようなミスをたびたび繰り返したのか。岡田さんの膨大なメモや記録を基に、丹念に検証されていく。
作家・幸田文さんに「闘」という長編小説がある。東京近郊にある結核病棟で病と闘う患者や医師らの肖像を四季の移ろいの中で描いた傑作だ。岡田さんはこの作品に影響され、国民の目からは見えない自身の「『秘められた闘い』を書いておきたい」と強く思ったという。
「秘闘」が出版されたのは昨年末。今は「第7波」が襲来中。地方自治体に判断を丸投げした「全数把握」の簡略化も一部で始まったが、政府はそれに伴う感染拡大のリスクを正面から語らない。岸田首相は一転して全国一律で導入する姿勢を表明したが、詳細は不透明。鈴木直道知事は「情報が錯綜(さくそう)している」と困惑する。コロナとの長い闘いが続く。(広)









