就職した頃、給料袋には現金が入っていた。昭和世代ならではの経験か。間もなく現金は金融機関の口座へ、手元には支給額や控除の明細だけが届くように変わった。
1カ月の労働への対価を、重みや厚みで実感できなくなった―そんな意見もあったが、それほど大げさな金額ではなかったせいもあってか、若年層の違和感は大きくなかったと思う。
口座振り込みは労使の合意に基づく例外的な方式で、今でも労働基準法上は現金支給が原則だと先日の報道に教えられた。その報道によると厚生労働省は来年度から、給料の一部を、現金を使わずに決済ができるキャッシュレス決済口座に振り込む「デジタル給与払い」を可能にする見通しになったという。
振り込み対象となるのはペイペイ、d払いなどキャッシュレス口座のうち、一定の条件を満たして国の指定を受けた「資金移動業者」。労働者や労働組合の同意や協定が必要なのは金融機関口座への振り込みと同じという。新しい方式で給与を受け取れば、決済に備える「チャージ」の手間が要らなくなる。
スマートフォンを利用した決済を利用した経験がない。入金の手間の省略がどれほど便利かも分からないが、スマホ依存症は好きになれない。もし通信事故があったら、大災害の時は―など不安は尽きない。物価の高騰が続く。給与の支給方式の変更よりも雇用や支給の安定と安全確保が先では―と、10月並みに冷え込んだ朝の愚考。(水)









