マタルナイ

マタルナイ

 先日、何気なくテレビを見ているとナマコ密漁のニュースが流れ、現場を見下ろす映像の中によく知っている場所が映って驚いた。稚内市西浜(マタルナイ)。祖父母が生前暮らした漁民集落だ。ひときわ目立つ赤い屋根の家と、浜へ続く細長い一本道が目に飛び込み「海のじいちゃん家(ち)!」と思わず叫んでいた。農家だった母方の実家と区別した子どもの頃の呼び方だ。

 中学卒業まで毎年お盆前後、この家に10日前後滞在し、コンブ干しを手伝った。「出面(でめん)さん」と呼ばれるアルバイトも多く出入りし、商店が数百メートル置きにあったから3代目の祖父が80代後半で廃業後も活気が持続することを疑わなかった。それが平成に入り一気に衰退した。ナマコ、ホタテ漁の後継者は育つが、商品化まで手間のかかるコンブ漁は若手に忌避されがち。先日、4年ぶりに見た築80年の家は老朽化が加速し、ガラス戸にひびが入っていた。強風で剝がれた倉庫のトタン屋根は、80歳を超えた叔父らが自前で補修している。

 マタルナイはアイヌ語で冬道の沢を意味する自然環境の厳しい土地だが、冬場以外は過ごしやすく、前浜から望む利尻富士は絶景だ。地名変更で15年ほど前、マタルナイの名は消え、新町名の立派な会館が建ったが過疎化は進行。集落が元気を失う一方、周辺海域でたびたび密漁が発生し、全道ニュースになる。最北の港町では今、そんなことが起きている。(輝)

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