幻の映像

幻の映像

 ファンの間でその存在が語り継がれた幻のフィルムが、56年の時を経て日の目を見た。ビートルズが1966年に来日公演した際、警視庁が警備の様子を収めた記録映像だ。名古屋のNPOが情報公開請求し、一部開示が認められた。

 ビートルズマニアを自認する身。ネットで公開された35分40秒の無音モノクロ動画を食い入るように見た。東京に滞在したのは6月29日から7月3日。日本武道館で計5回公演した。フィルムには大量動員された警察官が空港や会場周辺で物々しく警備、検問に当たる状況が収録されている。スターに一目会いたいと、ホテルの周りをうろつく少女たちを取り囲み、排除する光景も映っている。国賓級の態勢とされた伝説の警備。世界中の若者を熱狂させるロックバンドの来日が、思わぬ騒動に発展することを極端に恐れた体制側の緊張感が生々しく伝わる貴重な歴史的資料だ。

 だが、気になる点もある。メンバー4人を除き、警察官やファン、会場視察の関係者に至るまで顔にモザイクをかける異様な映像になっていることだ。個人情報保護で全面開示を渋った同庁が手を加えたらしいが、一般市民は理解できるとしても公務員やマネジャーの顔さえも隠すのは過剰。半世紀以上前の動画に細工を施す意味はどこにあるのか。NPOが裁判で争ってまで粘り強く請求し、一部といえどようやく開示までこぎ着けた映像は、情報公開制度のありようも問うている。(下)

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