別れ

別れ

 分家筋の生まれ。本家と違って家に仏壇はなく、日常的に合掌をする習慣もなく育った。葬儀や法事は遠い世界の出来事だった。火葬という厳かな別れに初めて参列したのは成人してからのことだ。

 「大人の役目は、子どもに人の死を見せないこと―」と随想に書いたのは、確か作家の野坂昭如さんだ。第2次世界大戦の戦災孤児として戦後を生きて学んだ真理なのだろう。子どもの視線を「見るな」「見なくていい」とさえぎる大人が、子どもの心の柔らかな部分を守る場面が、きっとあったのだろう。

 新型コロナウイルスの感染者は道内だけで100万人を超えた。感染による死者数も全国で5000人弱。病院も葬祭場も高齢者施設も、社会全体を感染から守るための対策を最優先に面会や別れの方式を変えて間もなく丸3年。老いた親と電話でしか話せず、顔を合わせないうちに親が受話器を取ることも減り、入院や入所がお別れになってしまったという人もいる。1年ほど前に入院し、数日だが家族らとの別れを経験した。本州に住む息子は手術前の激励どころか院外の駐車場での車内待機を言い渡された。納得しにくい別れはこれからも続くのか。

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって9カ月が過ぎた。ミサイルや戦車砲弾が飛び交って集合住宅や学校、病院を破壊し、むき出しの死と別れが、ウクライナの子どもたちの心を踏みにじっている。そして冬。寒さも武器に、むごい侵略が続く。(水)

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