移動手段は脚―。そういう時代に育った。1里は約4キロ。4キロを1時間で歩くことができればほぼ一人前だ。その程度の遅速を確かめながら、通学や用事をこなした。
親たちの世代はもっと頑強。「自転車で苫小牧や札幌を往復していた」という武勇伝を新冠や平取育ちの人から聞いたことがある。今は自活能力や健康の基礎として歩く能力が問われる時代。農漁村では高齢化、自動車との離別、商店や医療機関の減少が重なって暮らしにくさが猛烈な速度で増している。都市部でも「買い物難民」の増加が話題になって久しいが距離の遠さ、移動の困難は農漁村の方が圧倒的に大きいに違いない。
十勝管内上士幌町で1日から「自動運転バス」の実証実験が始まった。同町では高齢化で移動手段を失った高齢者の脚の確保を課題として取り上げ、自動運転バスの運行を検討してきたそうだ。国の助成や企業の協力が実現し、来年2月末まで週2回、中心部の交通ターミナルや病院、道の駅など約3・5キロ区間をフランス製の11人乗りバスが1日4便、時速20キロで走る。町は道路交通法の改正に合わせて来年度内にも完全無人化によるバス運行を目指すという。
過疎、高齢化、少子化―。気の遠くなるような難問だ。農漁村の交通にどんな未来図を描くことができるのだろう。見えた交通の骨格に、住民の支え合いが加われば、都市部の難民対策の参考になるかもしれない。実験の成果に注目したい。(水)









