人柱

人柱

 1986年初冬に廃止された旧国鉄富内線建設当時の悲しく恐ろしい話を友人らから聞いた記憶がある。夜になると鉄橋から建設工事に従事していたタコ部屋労働者の泣き声が聞こえてくるという。

 中学生の頃、友人宅で布団にくるまり大人から聞いた話を夜明けまで披露し合った。鉄橋の工事現場には飯場があり、夜な夜な賭け事が行われていた。挽回不能なほどに負けた者は鉄橋の補強のため、橋脚の底に「人柱」として埋められた。人柱は夜になると泣き、その声は今も聞こえる―。故郷で行われた鉄道工事の陰に残された怪談に引き込まれた。好奇心は旺盛でも確かめに行く度胸はなく昼間に遠くから鉄橋を眺めていた。

 2030年度末開業が予定されている北海道新幹線函館北斗―札幌間の最新の工期などが先頃発表され、ふと約100年前の工事のことを思い出した。

 新幹線工事の事業費が当初計画の1兆6700億円よりも4割、6450億円増えるほか、工期も全体の8割を占めるトンネル工事の一部で最大4年の遅れが出ているという。いずれも国交省の有識者会議の発表だ。完成時期は従来の目標を目指しているものの「大変厳しい状況にあるのは事実」だという。

 開業に合わせた駅新築や周辺開発への影響、事業費増に伴う沿線負担の増加、新幹線に経営改善を託すJR北海道の将来への影響など不安は山ほどある。まさか沿線からすすり泣きが聞こえるようなことには―。(水)

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