高過ぎる電気料金の請求書を見ながらおばあちゃんが「目玉がとび出すわよ」と嘆いた。傍らで驚いたおじいちゃんがせき込んだ途端に口からぽとっと何かを落とした。「入れ歯がとび出した!」と慌てた娘と孫の姉弟―。本紙21日掲載の4こま漫画「あんずちゃん」を読み、思わず笑った。どこかに暮らす家族の日々を温かなユーモアに包んで描く。親子で暮らした頃の楽しさが懐かしくなる。
その人はある日、学生当時の「記憶」として日本海の奥尻島に対岸から「泳いで渡った」と主張した。江差港からフェリー航路で片道70キロ余り。「遠泳」が実現していたなら超人的な記録となったに違いない。別の日には自身が通った教育大学に進学したばかりの孫が既に小学教諭になった―と言い張った。アルツハイマー病と診断されて約6年。穏やかな口調の問わず語りに耳を傾けるたび、妻子は否定せず「そうかい。そうかい」と応じ続けた。「その人」とは記者の父。
本紙に多く載る認知症関連記事に家族は力づけられることも多かった。当事者の尊厳を守りつつ見守ったつもりだが、併発中の臓器疾患で今冬、世を去った。最期を前に、脳トレ代わりの「新聞音読」を小職の記事で行ったと母に聞き、何かしら冥利(みょうり)に尽きた。(谷)









