祖国

祖国

 「祖国」という言葉が、ウクライナのゼレンスキー大統領の演説の中で使われる。辞書を見れば「先祖代々住み続け、自分もそこで生まれた国」。難しい言葉ではないが、日常的に使われないのは、熱く重い意味の込められる言葉だからなのか。大統領は国民にロシアへの徹底抗戦を呼び掛けて、この言葉を使った。

 何歳頃のことだったろう。学校の音楽の時間に、イングランド民謡「埴生(はにゅう)の宿」を歌った。寂しげな旋律が大好きだった。インターネットで歌詞を調べてみた。「春はあるじ 花は友」「秋の夜半 月はあるじ 虫は友」。土塗りの質素な壁の故郷の家と、とりまく自然を歌う言葉の優しさに欧州の繊細な自然観を教えられた。大きく澄み渡った青空と、広大な農地の広がるウクライナには「祖国」という言葉がきっとふさわしい。今は戦車に踏みにじられ、砲弾が飛び交い、地雷が埋められていても。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年のきのう、「出口見えず」の見出しの並ぶ新聞を繰り返し読みながら、ロシアの攻撃に耳を澄ました。国連は大差でロシアの撤退要求を採択した。しかし、反対も棄権も多い。戦闘は続き、ロシア軍の発表ではウクライナの兵士200人以上が戦死したという。つらい春が続く。(水)

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