遠い昔、駆け出し記者の頃。家族で千歳市で暮らしていた時代がある。ある日、まだ2歳だった息子が三輪車に乗ったまま消えた。見つかったのは、自宅からかなり離れた隣接する臨空工業団地。その企業の守衛さんが、三輪車に乗る幼児を心配して交番に通報してくれた。息子は三輪車と一緒にパトカーで帰ってきた。そんな懐かしい思い出がある。
次世代半導体の国産化を目指すRapidus(ラピダス)が千歳美々ワールドに工場を建設すると発表した。トヨタ自動車など国内主要企業8社が出資した国策半導体会社の進出で正直、驚いた。
来道した小池淳義社長は、千歳を選択した理由を記者団に語った。大自然に囲まれた広大な産業用地、豊富な水―。小池さんはかつて千歳で半導体会社を率いていた時代がある。実は三輪車の息子を見つけてくれたのも、その企業だ。「とてもいいところでした」。そう振り返った。同時代を生きた彼もまた、思い入れの強い街なのかもしれない。
日米半導体摩擦から40年。1980年代に世界の半導体市場のシェア50%を超えていたが、今は1割未満。「半導体敗戦国」の日本。その復活を目指し、総投資額5兆円を見込む国策プロジェクトが、千歳の地で始まろうとしている。(広)









