忘れない

忘れない

 「だいき、覚悟しろ」。津波に車ごと襲われた母を探す11歳の男の子に、伯母が駆け寄り叫ぶ。商業施設内へ流れ込んだがれきの山に、変わり果てた姿があった。東日本大震災から12年たったいまも、忘れられないテレビ報道の一幕。

 出来事は仕事柄もあって5年、10年と節目で捉えがちだが、阪神・淡路大震災や胆振東部地震など災害は、毎年想起しては悲しみに暮れる。同時に、人や町並みが一歩ずつ立ち直っていく様子に勇気をもらう。

 一個人にできることは何かと自問したとき、いつまでも忘れずにいることが最低限の行いと思うからだ。

 昨年冬にグループホームへ入居した認知症の祖母と先月、久々に再会した。小生の顔を見るや「ミツトシかい」と祖母の弟に間違われた。覚悟はしていたが、いざ忘れられると寂しい。

 再び別れの時。笑顔で手招きしながら小生の名を呼び「みかん食べなさい」。良かった、忘れてない。(北)

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