大相撲でウクライナ出身の安青錦(あおにしき、本名ダニーロ・ヤブグシシン)が力を伸ばしている。ロシアによる母国への軍事侵攻を受け、2022年4月に来日した20歳。元関脇の安美錦が師匠を務める安治川部屋に入門し、昨年9月の秋場所で初土俵を踏んだ。三段目に昇進した3月の春場所でも6勝1敗の好成績を収めたホープは「横綱になりたい」と目を輝かせながら語る。
▽友人の助力で夢追う
ウクライナではアマチュア選手として欧州選手権などで実績を残したが、戦争で練習拠点などを失った。「助けてほしい」と支援を求めたのは、友人だった日本人。19年に大阪で開かれた世界選手権の際に知り合った関大相撲部主将(当時)の山中新大さんだった。
山中さんの自宅に住み、入門まで生活や稽古を共にした。母国の国旗や目の色から「青」の字を入れたしこ名の下は「新大」。「名前を頂いたからには頑張りたい」と恩返しを期す。師匠は21歳で十両になったこともあり、「自分も22歳までには関取になりたい」。一人前の力士を目指して鍛錬を積んでいる。
180センチ、125キロの筋肉質な体で、前まわしを引いての速攻が持ち味。師匠や元横綱3代目若乃花ら体格が似た力士の映像を見て研究を重ねている。安治川親方も「真っすぐな目がいい」と愚直なまでの真面目さを評価。初めて番付に名前が載った昨年11月の九州場所で序ノ口優勝を遂げ、1月の初場所で序二段も制した。
▽母国を勇気づけたい
軍事侵攻については多くを語らないが、「戦争は大変。早く終わってほしい」と願う。両親はドイツ、兄は今もウクライナで暮らしており、「家族のために頑張りたい。助けたい」。離れて暮らす家族とは日々連絡を取り合っている。自身の活躍で苦しむ母国を勇気づけたいとの思いがある。
侵攻から2年がたったものの、終戦は見通せない。故郷の状況は「ニュースで見ている」と心配そうに言う。「もっと自分も強くならないといけない。足りないところがいっぱいある」。稽古に打ち込むことで、先の見えない不安にも打ち勝とうとしている。
最近は以前よりも笑顔が減った。理由を尋ねると、「番付には、まだまだ上があるので」と覚悟を決めた表情を見せた。周囲の助けがあってこそ、土俵に上がることができていると分かっている。「頑張れば、元気になってもらえる」。さまざまな人の思いを背負いながら、汗を流す。

















