鈴 磯崎(いそざき) 文盛(ぶんせい)

鈴 磯崎(いそざき) 文盛(ぶんせい)

 以前、介護の職場で働いていた時、ある利用者さんからスタッフ全員に1人一つ「鈴」をプレゼントされたことがありました。

 色とりどりの鈴があり、みんな好きなものを選んでいて、私のもらえる番は最後の方でした。5ミリくらいのきれいな青色のものと、1センチくらいの薄い緑色の二つが残っていて、どちらが良いかと聞かれました。正直、小さい方が良かったのですが、当時まだ20代前半の私。少し大人ぶって「お任せします」なんて言ったところ、大きい方を頂くことになりました。鳴らしてみると音がちょっと大きく、せっかく頂いたものの、どこに付けたら良いか悩みながら帰りのバスに乗ったのを覚えています。

 さて、そのバスの中で私の斜め前に年配の女性が座っていました。発車して少したった頃、「ゴトッ」と何かが落ちた音がしました。何だろうと音のした方をよく見ると、その女性の座っている足元にお財布が落ちていました。でも、その方は耳が遠いのか、落としたことに気付いていません。私が拾ってあげようと思ったら、やっと財布が落ちたことに気付かれた様子。その時私は、お財布に付けるとちょうどいい「鈴」を持っていることを思い出しました。しかも、その女性が停車ボタンを押した所は、私も降りるバス停でした。下車してから鈴をお渡ししたら、とても喜んでいただけました。私の手元には結局、大小どちらの鈴もありませんが、こうしてもっと大きな価値のある思い出をもらうことができました。

(いぶり勧学館館長・苫小牧)

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