マットに仁王立ちし、チャンピオンベルトを巻くしぐさを見せた。清岡は「小さい頃から夢見て駆け抜けてきた。ようやく実現できた」と万感の思いを込めた。
2022年世界王者のアムザドハリリ(イラン)との決勝は、一瞬のチャンスを物にした。0―1でリードされて迎えた第1ピリオド、残り30秒に差し掛かろうというところだった。タックルからの寝技で逆転すると、相手の脚を固めて体を4度回転させた。「あのポジションになれば、という自信があった」とうなずいた。
天性のセンスと勝負強さを兼ね備えた逸材。日体大時代から教える湯元コーチは「ミラクルボーイ」と表現する。23年全日本選手権で、東京五輪王者の乙黒を準決勝で破るなどして優勝。五輪アジア予選も制してパリの舞台に立った。
常に反骨心を胸に成長してきた。故郷の高知県で、今大会女子57キロ級金メダルの桜井つぐみの父優史さんに誘われて始めたレスリング。男女の違いはあれど、幼い頃から一緒に鍛錬してきた。
高校で全国制覇し、先に頭角を現したのは清岡だったが、その後桜井が先に世界選手権で優勝。パリへの切符も幼なじみが先に手に入れた。地元で行われる激励会でも中心はいつも桜井。「何で俺じゃないんだ。主人公になりたい」。その思いがあれば、つらい練習も乗り越えられた。
優勝を決めると、応援に駆けつけた桜井と抱き合った。「2人で桜井先生に金メダルを掛けてあげることができた」。劇的なドラマを締めくくる美しいラストシーン。清岡の姿は確かに主人公だった。

















