苫小牧市大町の老舗バー「オー・ド・ビー」のマスター鴻野裕征さん(83)が1月31日を最後に店を閉め、自身も引退を決めた。飲食業界に入って60年を超え、店づくりから提供する酒や料理まで、丁寧な仕事ぶりで常連客に愛されてきた。鴻野さんは「大切な思い出もたくさんある。本当に感謝している」と話した。
シックな雰囲気の店内。カウンターの棚にウイスキーなどのボトルやグラスが整然と並び、最終日の同日は常連客が次々と訪れた。鴻野さんをねぎらい、ケーキをプレゼントする人もいた。
フランス語で「命の水(お酒)」を意味する同店は1991年オープン。鴻野さんは50年代後半から、札幌市内のパーラーに住み込みで働き、料理の腕を磨いた。苫小牧に戻って知人の店に雇われ、「当時まだ珍しかったナポリタンも作っていた」と懐かしむ。
その後、自分のバーを持つように。お酒を大事にしながら、じっくり仕込んで作るナポリタンや牛タンシチュー、ポークチャップも人気を集めた。閉店を知った常連客の要望に応え、店を開ける前に料理を振る舞う日も設けた。
最終日もきれいな姿勢でシェーカーを振り、客をもてなした鴻野さん。店内のピアノでジャズのスタンダード曲などを奏でていた常連客でしらかば町の赤間郁雄さん(76)は「(自分が)30歳の頃から鴻野さんのいる店に通っている。大人のおしゃれな感じが好きで大切な場所だった。今はお疲れさま、ありがとうございました、と伝えたい」と感慨深げ。
地元の経済人、病院関係者、市職員など客層は広かった。カクテルを味わっていた苫小牧観光協会会長の市町峰行さん(73)は「カクテルも生の果物を使って作り、マスターはまさに職人。その人柄に引かれ、いろんな人が集まる店だった」と残念がる。
鴻野さんは昨年10月に兄を亡くし、自らの年齢と体調も考え引退を決断した。「お客さまにまた来たいと思ってもらえるように『飽きない』でするのが『商い』と思って、ここまで来た。人との出会いに支えられた」と笑顔を見せた。
















