母と祖母の思いを受け継ぎ、苫小牧市汐見町に10年ぶりに復活した喫茶店がある。昨年12月、水産ビルにオープンした「豆の木」。2013年まで約20年間にわたって営業した前身の店と同じ場所、同じ名称で再開した。新たな店主は先代の長男末永健太さん(23)。「昔ながらの喫茶店の良さを残しながら、今どきのカフェの感じもミックスした店にしたい」とにこやかな表情でコーヒー豆をひく。
健太さんは小学生の頃から、前店主の母香代さん(56)や祖母君成田和子さん(83)とカウンターに立ち、常連客にかわいがられた。学校から帰る先は、家より「豆の木」。「お客さんがお菓子とかジュースをくれて。とにかく居心地が良かった」と振り返る。
中学生になってからは放課後に同級生を引きつれ、見よう見まねで作り方を覚えたパスタやチャーハンなどを振る舞った。第二のわが家ともいえる掛け替えのない自分の「居場所」。しかし香代さんの病気で、13年3月に閉店を余儀なくされた。
「自分の手で復活させたい」とずっと夢見てきた健太さんに、きっかけは突然やってきた。先代「豆の木」の閉店後に入居していたカレー店が昨年春で閉店。折に触れ店舗の様子を確認していた健太さんは同年11月上旬、ビルの前を通り掛かった。「あっ、空いている」。すぐに所有者の苫小牧漁業協同組合に連絡した。
決して人の目に付きやすい所ではないが、「同じ場所」での再開を願ってきた健太さんは入居を即決。将来に向けて市内の企業を退職し、上川管内上川町の飲食店で料理や接客を学び始めたばかりだったが、いったん燃え上がった心の火は止められなかった。
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先代の「豆の木」は1975年に和子さんの弟が開店。93年に和子さんと香代さんが譲り受ける形で継いだ。2人が切り盛りした頃は40種類以上のメニューがあり、まるで食堂。苫小牧港・西港漁港区に近いことから漁師の客も多く、ボリュームたっぷりの食事が売りの一つだった。お昼時は老若男女であふれかえり「本当に大変だった」と、病気を克服し今も厨房に立つ香代さんは笑う。
常連客が「懐かしい」と話すレトロな店内の雰囲気は、今も変わらない。ただメニューには健太さんのこだわりをちりばめた。先代からの看板商品、肉厚のハンバーグとナポリタン以外は一新。趣味のキャンプをきっかけにひき始めたコーヒーも、豆からこだわって福井県の知人から取り寄せる。出すのはスタンダードなブラジル産「モンテアレグレ」と、少し苦みの強いインドネシア産「マンデリン」の2種類だけ。丁寧に時間をかけて入れる。
健太さんには新しい夢がある。「『豆の木』は、家にいるより長かった自分の思い出の場所。いつか生まれてくるかもしれない自分の子どもにも、大好きな居場所をつくってあげられたらいい」。まだ店が軌道に乗ったとはいえないが、できる限り長く続け、次の世代につなぎたいと決意している。
















