グレコローマンスタイルを愛する男が、40年間も閉ざされていた重い扉をこじ開けた。男子60キロ級の文田健一郎選手(28)=ミキハウス=が金メダルを獲得。グレコの日本勢では1984年ロサンゼルス五輪52キロ級の宮原厚次さん以来の快挙を達成し、「もう最高。メダルはめちゃくちゃ重たい」と笑った。
前回東京大会ではあと一歩及ばず涙を流した決勝の舞台。昨年の世界選手権3位の曹利国選手(中国)に序盤から圧力をかけ、相手の消極的姿勢による警告(パッシブ)で1点、さらに有利な体勢から再開された寝技で相手の体を回して2点を追加した。3―0で迎えた第2ピリオドは逆にパッシブで1点を失ったが、その後の寝技で耐えてリードを守った。相手のチャレンジ失敗による1点も加え、4―1で完勝。日の丸を身にまとい、誇らしげにマットを一周した。
グレコローマンスタイルは下半身へのタックルは許されず、上半身のみの攻防。力と力がぶつかり合い、豪快な投げ技が勝負を分ける。文田選手はその魅力を伝える使命を胸に、マットに立ち続ける。
グレコの選手だった父の敏郎さんが監督を務める山梨・韮崎工高時代、この道で戦うことを選んだ。「ものすごく面白い競技だし、盛り上がれる競技だと思う。僕が金メダルを取ったことで注目されて、子供たちが憧れてくれるきっかけになってほしい」。日本では女子や男子フリースタイルの陰に隠れがちだが、この歴史的勝利を機に人気種目となることを願う。
現役時代に2000年シドニー五輪から3大会連続で出場し、日本のグレコを担当する笹本睦コーチも感無量の表情で、文田選手のウイニングランを見守った。「現役時代からどうにかグレコをメインにしたいと考えてきた。教え子たちが強くなって、金メダルを取ってくれて、本当にありがたい」と目を細めた。

















