芸術祭の展示内容に政治家が問題提起し、脅迫騒動に発展し、中止に追い込まれるなど「表現の自由」をめぐる議論が注目される中、苫小牧市内で表現活動に携わる人たちも現状に複雑な心境を抱え、活動に臨んでいる。
愛知県で3年に1度開かれる「愛知トリエンナーレ」は8月1日に開幕したが、この中の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕から3日間で中止に追い込まれた。過去に発表が制約された作品を集め、表現の自由を問い掛ける内容だったが、一部の政治家が展示内容への疑問を発信し、非難や脅迫も相次いだため、主催者が安全確保の観点から同企画展の観覧を制限する対応を取った。
「いろんな意見があるのが社会。特定の考え方しか許さないような雰囲気に、不気味さを感じる」―。苫小牧樽前小学校を舞台にした芸術祭を続けて来たNPO法人「樽前arty+(アーティ・プラス)」の理事で、金属工芸家の藤沢レオさん(44)は愛知県の芸術祭の状況にそんな感想を口にする。
一方、同芸術祭実行委会長の大村秀章愛知県知事が憲法21条に基づいて、行政が発表の機会を守り、憲法が禁じる「検閲」に相当する展示内容への介入は慎むべき―とした見解には、藤沢さんも賛同する立場だ。
慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇の写真をコラージュした作品などの展示が政治的な主張だとして批判的な声も挙がったが、藤沢さんは「現代の作家であれば今の社会と向き合い、作品を作っていくので、何らかの政治的な意味も持つもの。樽前アーティで過去に過激な作品を扱った時には作者も交えて対話の機会を設け、問題も起きなかった」と振り返る。
非核平和の実現を願い、広島や長崎の原爆詩、福島の原発事故を題材にした朗読劇を長年、苫小牧市内で開いてきた「ヒロシマ・ナガサキを語り継ぐ会」の舘崎やよい代表(77)も議論の場が狭められていくことに危機感を持つ。
この朗読劇は市や教育委員会の後援も得て高校生も関わっているため、題材選びや運営方法などに一定の配慮はしているが、「問い掛けの機会すら奪うのはおかしい、と感じる。いろんな表現に触れ、良いのか、悪いのかを考えたり、話し合ったりする機会は守ってほしい」と指摘する。
今年で6年目の無料の音楽野外ライブ「活性の火’19」(実行委員会主催)が8月24~25日に市内で開かれた際、JR苫小牧駅前再生の障害になっている、空きビルの旧商業ビル駅前プラザegao(エガオ)の写真でPRポスターやスタッフTシャツを作り、中心街問題の可視化を狙ったという。実行委員長の杉村原生さん(41)は「音楽ライブだが、苫小牧の課題をみんなに考えてほしかった。問題になるかとも思ったが、反応がなくて残念」とこぼした。
ただ、市内でも文化的な作品への抗議が出たケースもあった。市内の映画館「シネマ・トーラス」が慰安婦問題をテーマにした映画を6、7月に上映した際、「上映中止」を求める投書が同館に届いたという。同館代表の堀岡勇さん(67)は上映の続行を選び、「作品を評価するのはお客さんで、その機会を映画館が奪ってはいけない」と訴える。
















