文化復興で課題浮上 ウポポイ 開業から10日 白老

文化復興で課題浮上 ウポポイ 開業から10日 白老
2068人が来場したオープン初日のウポポイ。課題を抱えながら船出した

 国がアイヌ文化の復興と創造の拠点として白老町ポロト湖畔に整備した民族共生象徴空間(ウポポイ)は、開業から22日で10日の節目を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大の逆風で、政府が掲げた年間100万人の達成は早くも困難に陥り、文化復興の面でも課題が見えてきた。

 ■100万人達成は困難

 「民族共生社会の実現に資する重要な役割を果たしたい」。12日のオープニングセレモニーで、主催者代表のアイヌ民族文化財団(本部札幌市)の常本照樹理事長はそう力を込めてあいさつし、華々しくスタートを切ったウポポイ。管理運営に当たる同財団の集計によると、開業初日は2068人が来場。平日は800~1100人台で推移し、土曜の18日は1639人、日曜の19日は1851人、休館の月曜日翌日の21日は1134人と、オープン以降、9日間の営業で計1万563人を数えた。

 同財団は新型コロナ対策で入場を基本的に事前予約制とし、平日2000人、土日祝日2500人に制限する措置を取っている。開業後、いずれの日も上限枠を下回ったものの、コロナ禍で観光の動きの鈍さが続く中、常本理事長は「数字としてはまずまずだ」と受け止める。

 だが、来場者確保の先行きは厳しい。22日から8月5日まで2週間分の入場予約状況=21日午後5時現在=によると、連休の23~25日を除き「空きあり」の日が続く。東京都を中心に第2波の様相を見せるコロナ感染の拡大は当面の間、入場者数を低迷させる要素になりかねない。地元白老町でも「コロナ感染が怖く、各地から人が集まるウポポイへ見学に行くのはためらう」と話す住民もいる。

 秋の修学旅行で見学予約した小中学校と高校は6月末時点で576校・5万9290人に上るが、それを加えても政府が目標に掲げる年間来場者数100万人達成は今年度、極めて難しい情勢だ。新型コロナの影響で当初予定よりオープンが2カ月半以上遅れたことも大きく響いている。

 入場者数の確保に向けては、予約手続きの方法にも難点を抱える。ウポポイへの入場と国立アイヌ民族博物館の入館は基本的にインターネットによる予約の申し込みシステムを採用し、ネット環境が無かったり、慣れていない高齢者にとってはハードルが高い。同財団民族共生象徴空間運営本部の對馬一修本部長は「多くの人にウポポイを見てもらうことは、アイヌ民族や文化への理解促進の上で重要だ。ウェブ予約の課題にどう対処できるか考えたい」と話す。

 ■文化復興に課題も

 ウポポイは、幕末や明治以降の同化政策の歴史を背負うアイヌ民族の文化を復興、伝承する拠点に位置付けられているが、その点についても課題を残している。

 アイヌ民族の文化の根源をなすのは、カムイ(神)とつながる精神世界。その代表的な儀礼がイオマンテ(熊の霊送り)だ。ウポポイ整備地のポロト湖畔にあった民間の旧アイヌ民族博物館は1989年以降、長く途切れていたイオマンテを復活させ、3度にわたり行った。アイヌ文化の集大成、神髄とも言える古式儀礼の復元は、職員の文化伝承者としての力を育んだが、「今のウポポイで行うのは無理」との指摘が関係者から上がる。自由度の高い民間とは異なる国立施設であることや、熊の殺傷を伴う儀礼に対し動物愛護の観点から批判が出る恐れがあるからだ。「ウポポイという枠の中では本質的な文化復興、伝承は難しい」と言い切る関係者もいる。

 中核施設・国立アイヌ民族博物館に関しても、別の博物館関係者から「まるで美術館のような展示で、アイヌ文化の生々しさ、人間臭さを含めた奥深さが伝わりにくい」との声が聞かれる。同化政策で伝統の営みが奪われ、差別や偏見も根強く続いた歴史への国民理解を促し、認識のずれを正す展示も弱いとの見方もある。

 伝承の人材育成もウポポイの重要な役割だが、職員らは古式舞踊の紹介など来場者へのプログラム提供に追われ、伝統文化を幅広く会得する時間的余裕がない。

 先住民族アイヌの誇りが尊重される社会の実現をうたい、昨年5月に施行されたアイヌ施策推進法。民族共生社会を目指す新法の趣旨を踏まえ、国がアイヌ施策の”扇の要”とするウポポイは、多くの宿題を抱いたまま船出した。

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