山に登る時は、入り口で「よろしくお願いします」とつぶやく。下山したら「ありがとうございました」
なぜそんなことをするのかと言えば、登山の先輩が言った「なんだかきょうは歓迎されていないな、と感じる日がある。そんな日は登るのをやめる」という言葉が印象に残っているからだ。
山に登るのは年に数回程度だが、その感覚はなんとなく分かる。
山ではたまに、不思議に思える場面に出くわす。にぎやかだった鳥たちのさえずりやそよ風が不自然にやみ、森が静寂に包まれる。風もないのに木の一本の枝だけが不自然に揺れている。呼び止められるような視線を感じる―など。
勘違いや思い過ごしかもしれない。
だが、アイヌ民族や東北地方のマタギなど大自然に生き、独自の自然観や宗教観を持つ人々は、山で感じ取った不思議に人知を超えた存在をみて信仰の対象にしたのだろう。
山に潜む「何か」を意識することは、おごりを排し、謙虚に自然に向き合う意識を育んだ。
自然を楽しむには謙虚さが必要。それを忘れないためのささやかな謝辞である。
(平)
















