京都大学の河原達也教授(情報学研究科)の研究チームがアイヌ民族の口承文芸をアーカイブ化(保存記録)するため、AI(人工知能)を活用した音声認識システムの研究開発を進めている。伝承者がテープで残した民話の語りを自動処理で文字化したり、失われたアイヌ語音声資料を文字から復元したりする技術。白老町で16日に開かれた「アイヌ語アーカイブ研究会」(アイヌ民族文化財団など主催)で研究内容が報告され、参加者は消滅危機にあるアイヌ語の保存や継承に貢献するシステムに期待を寄せた。
河原教授は、AI音声メディア研究の第一人者として知られる。国会の会議録を作成する自動音声認識システムを開発し、実用化されている。アイヌ民族が継承したウエペケレ(昔話)など口承文芸の保存記録に向けて、システムを応用する研究は2018年度に着手。白老町の旧アイヌ民族博物館から引き継ぎ、民族共生象徴空間(ウポポイ)の国立アイヌ民族博物館で保管されている音声資料などを自動で文字化する研究開発は進み、同博物館によるシステム活用も始まっている。
音声資料を書き起こす作業は従来、研究者らの手で行われていたが、自動化により作業負担は大きく軽減される。河原教授は「書き起こされていない音声テープは蓄積されており、これを自動処理するAIはアイヌ文化を保存、継承する上で重要な技術となり得る」と言う。
アイヌ語研究者ら約20人が参加したアーカイブ研究会で河原教授は、逆に文字で記録された口承文芸をAIで音声化する技術についても紹介。伝承者やアイヌ語学習者の声を合成し、失われた音声資料を復元する試みに取り組んでおり、「合成音声の匿名性を高めるためにも、合成に利用するアイヌ語の話者の音声をもっと増やすことが必要」と課題を示した。
また、今後の研究開発として、日本語とアイヌ語が混じった会話の音声認識と文字化システムの構築や、ウエペケレやユーカラ(英雄叙事詩)といった口承文芸の種別への対応を挙げた。
研究開発の進展に同博物館の安田益穂学芸員(アイヌ語アーカイブ担当)は「文字だけで残った口承文芸を音声化し、若い世代がアイヌ語を学べる重要なツールとなる」と期待。研究会に参加したアイヌ民族文化財団職員でウポポイのアイヌ語プログラムを担当する山丸賢雄さん(26)は「音声復元技術はアイヌ語に関する新たな発見につながる」と実用化を心待ちにした。
研究会は17日も開かれ、アイヌ語研究の第一人者で漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者としても知られる千葉大学文学部の中川裕教授や、北海道大アイヌ・先住民研究センターの北原モコットゥナシ准教授らが研究成果を発表した。




















