第55回夏休み読書感想文コンクール(4) 中学校の部・最優秀賞 明るい未来を願って ウトナイ中3年久保(くぼ)友櫻(ゆら)さん

第55回夏休み読書感想文コンクール(4) 中学校の部・最優秀賞 明るい未来を願って ウトナイ中3年久保(くぼ)友櫻(ゆら)さん

 ページをめくるたびに、聴いたこともないルバーブの音色が頭の中に響いてゆく。優しく、静かに流れるような音。不思議な感覚だった。この夏、そんな本に私は出会った。

 「この苦しみにいつか終わりが来るものかどうか、わしにもわからんのだ」

 じじの言葉が心に響く。そして、今の大変な状況とリンクし、田舎に住む祖父母を想(おも)い、また胸が痛む。まだまだ収束の見えない新型コロナウイルス。日に日に感染者数は増え、感染予防を強いられながらの生活は、今もなお続いている。私にも、サミと同じように、大切な祖父母がいる。今はなかなか帰省することもできず、元気にしているだろうか、寂しがってはいないだろうかと、心配になる。

 今、私にできることはなんだろう。

 じじとサミはアフガニスタンからの難民であり、アメリカに渡るまでの4年間、さまざまな国を渡り、差別と偏見のまなざしで見られてきた。私も幼少期に、父親の仕事の都合で何度も引っ越しを繰り返していたのだが、言葉のイントネーションを指摘され、心を痛めていた母の姿を、ふと思いだした。

 現在、コロナウイルスによる差別や偏見、嫌がらせを受けている人がいるということも、また現実だ。同じ人間なのに、なぜ差別や偏見が生まれるのだろう。

 本の裏表紙に、アフガニスタンのこんなことわざが書いてある。

 「初めて会った日には、友だち。再会した日には、兄弟」

 世界中の人々がそう思えたなら、争いや差別はなくなるかもしれない。初めて会った日には、お互いを理解し合える友人に。再会した日には、お互いを認め合える兄弟に。みんながそう思えたなら、すてきだなと思った。けれど、争いが途絶えることはなく、アフガニスタンでも、それは日常的に行われているという。サミも、タリバンの自爆テロによって、両親や親戚を亡くしている。

 花火を見てフラッシュバックしてしまうページでは、涙があふれて止まらなくなってしまった。同時に、19年前に起きたアメリカ同時多発テロ事件を思い出す。私が生まれる前の出来事だが、事件を知った時の衝撃は今でも忘れられない。私には想像もつかない苦しみや哀(かな)しみ。私はなんて恵まれた環境で生活しているのだろうと、改めて考えさせられた。

 じじの「ずっとこのままではないはずだ。」という言葉に胸が締め付けられる。そして、そんな人間ばかりではなく、優しくあたたかい人間も世の中にはたくさんいるはずだと、強く願う。

 アメリカに渡ったサミも、あたたかい友人の存在に助けられ、徐々に傷ついた心を解きほぐしていく。友人の力は偉大だ。私も現在の地に移り住み、たくさんの友人らに支えられてきた。サミのように、大切にしていたものを失くしてしまい、一緒に探し回ってくれた友人もいた。父親の転勤がなければ出会うことのできなかった、大切な友人だ。失ってしまったからこそ気付くことができるものもあるのかもしれないと思った。ひとを傷つけることができるのも人間なのだとしたなら、ひとを癒やすことができるのもまた、同じ人間なのかもしれない。

 私は今、中学3年生で人生の岐路に立っている。進学先がなかなか決まらないのだ。ほとんどの友人は、市内の高校へ進学する。私は市外の高校を目指しているのだが、やはり、また一から新しい環境や友人をつくりあげていく勇気がなく、二の足を踏んでしまう。サミの言葉は、そんな私の臆病な心を後押ししてくれているようにも思えた。

 「ぼくは、新しい人の結びつきと、新しい歌と、新しい故郷を手に入れた」

 私も、新天地へ飛び込んでみようか。そこにはきっとまた、新たな出会いがあるはずだ。そして、サミのように、新たな時間の中で得られるものがあるかもしれない。私はサミから「勇気」という贈り物をもらったような気がした。まだまだ終息のみえないコロナ禍にも、きっといつか終わりはくる。「ただいま」と笑顔で祖父母の元へ帰省できる日が、マスクを外して友人と笑い合える日々が、きっと戻ってくる。最後のページをめくり、じじの手にルバーブが戻った瞬間、そう思えた。

 もっとさまざまなことに関心を持ち、いつの日にか争いや差別や偏見のない世の中が訪れるようにと願い、今はたくさん勉強しよう。今できることを精いっぱい頑張ろう。それが今、私にできること、私がしたいこと、自分自身との取引だ。まずは来年の春、じじのように、祖父母を最高の笑顔にすることが私の目標だ。

 本を閉じ、ルバーブの音色をスマートフォンで検索し、聴いてみた。私の想像とは少し違っていて、もっと力強く、響くような音色だった。けれど、そのどこまでも響き渡るような音色は、明るい未来への道しるべのようにも思えた。

(おわり)

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