時代

時代

 アイヌ語で「小さな川」を意味する名前の川の左岸で育った。主要な道路は右岸にあり、石炭を運ぶトラックの列を対岸から見ていた。

 小学校の入学前、左岸の細い砂利道に自動車が来ることは少なく、たまにエンジンの音が聞こえると、子どもたちは遊びを中断して道路に駆け寄ったものだ。通り過ぎた後、走って追い掛けたりもした。自動車が大好きだったのだ。ガソリンや排ガスの匂いも大好きで、匂いを探すように吸い続けたものだ。

 そんな郷愁は、健康や環境意識の高まりと技術の進歩の中で次々と否定されてきた。政府は温室効果ガスの排出を減らすため、2030年代半ばにガソリンだけで走る乗用車の新車販売をゼロにする方向で関係機関などと協議をすると報道されていた。既に英国やアメリカ・カリフォルニア州では規制を発表している。19年に国内で販売された乗用車の6割がガソリン車という。十数年後にはガソリンエンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)や、さらに環境負荷の少ない電気自動車(EV)、水素で走る燃料電池車(FCV)が主役になる。

 運転免許証を持ち、車を保有して半世紀。葬式だ登山だと、1日500キロ以上を走ったことが何度もある。自分の世代が、環境汚染や地球温暖化の元凶なのだと自覚している。反省も含めてHVに乗り変えて、もう十年以上。年齢から考えれば、自分にはEVやFCVの時代は来ない。時代は変わるのだ。(水)

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